2026年6月7日
2026年6月7日
お名前.com DNS と DNSimple を比較する|管理画面で手入力する運用と、API で自動化する運用の分かれ目
お名前.com DNS と DNSimple のどちらが向いているかは、「DNS のレコードを人が管理画面で変更するのか、ツールやスクリプトから変更するのか」でおおむね決まります。レコードの変更が年に数回で、日本語の画面とサポートを重視するならお名前.com DNS、証明書の自動発行やサーバー構築の自動化と DNS をつなげたいなら DNSimple が候補になります。
この記事では、WordPress サイトを運用する立場から、両者の違いを「日々の作業」「自動化」「アカウントの安全性」「移行のしやすさ」の順に比べ、どちらを選ぶかの条件と、乗り換えるときの注意点を説明します。両サービスとも機能や画面は更新されるため(2026年10月現在)、契約前に公式サイトで最新の内容を確認してください。料金は契約内容によって変わるため、この記事では扱いません。
2つのサービスの位置づけ
お名前.com DNS は、ドメイン登録サービスのお名前.com に付属する DNS 機能です。お名前.com で登録したドメインであれば、管理画面(お名前.com Navi)からレコードを設定できます。ドメインの契約と DNS を1か所で管理でき、画面もサポートも日本語です。
DNSimple は、米国の事業者が提供する DNS とドメイン管理のサービスです。管理画面は英語が中心で、API を前提に設計されている点が特徴です。ドメインの登録もできますが、他社で登録したドメインのネームサーバーを DNSimple に向けて、DNS だけを使うこともできます。
どちらも「権威 DNS(ドメインの答えを返す DNS)」として使うもので、役割は同じです。違いは主に、操作の手段と周辺機能にあります。
日々の作業で比べる
WordPress の運用で DNS を触る場面は、サーバー移転、メール設定(MX・SPF・DKIM・DMARC)、外部サービスの所有権確認(TXT)、サブドメインの追加あたりが中心です。
- お名前.com DNS: Navi の画面でレコードの種類・ホスト名・値・TTL を入力します。日本語の手順書や解説が多く、レンタルサーバーや国内の外部サービスの案内も、お名前.com の画面を例にしていることがよくあります。一方で、ドメイン管理の画面と同じ場所に各種の案内やオプションの表示が並ぶため、目的の画面にたどり着くまでに迷う人もいます。
- DNSimple: 画面は英語ですが、レコードの種類と値を入れる作業自体は一般的な DNS 管理画面と同じです。よく使う外部サービス向けに、必要なレコードをまとめて追加できる機能があります(対応サービスは更新されます)。
変更の頻度が低く、作業するのが1〜2人なら、手間の差は小さいと考えてかまいません。判断の分かれ目は次の自動化です。
自動化で比べる
ここが両者の最も大きな違いです。
API の有無
DNSimple は REST API(v2)を公開しており、レコードの一覧・追加・更新・削除をプログラムから行えます。本番環境とは別に、試験用のサンドボックス環境も用意されているため、スクリプトを本番のドメインで試さずに済みます。
# DNSimple API の例: ゾーンのレコード一覧を取得する
# アクセストークンとアカウントIDは環境変数から読む(コードに直接書かない)
curl -s \
-H "Authorization: Bearer ${DNSIMPLE_TOKEN}" \
-H "Accept: application/json" \
"https://api.dnsimple.com/v2/${DNSIMPLE_ACCOUNT_ID}/zones/example.com/records"
お名前.com DNS は、一般の利用者向けにレコード操作の API が広く提供されている状況ではありません(2026年10月現在、筆者が確認できた範囲)。レコードの変更は基本的に Navi の画面から行うことになります。
証明書の自動発行(DNS-01)
Let's Encrypt でワイルドカード証明書を取る場合などは、DNS に TXT レコードを自動で追加する DNS-01 認証が必要です。DNSimple には Certbot 用のプラグイン(certbot-dns-dnsimple)があり、更新まで自動化できます。
# certbot-dns-dnsimple の例(認証情報ファイルは chmod 600 にして Git に入れない)
sudo certbot certonly \
--dns-dnsimple \
--dns-dnsimple-credentials /etc/letsencrypt/dnsimple.ini \
-d example.com -d '*.example.com'
お名前.com DNS で同じことをするには、API がないため手作業で TXT を追加するか、_acme-challenge のサブドメインだけを API 対応の DNS に委任する、といった工夫が必要です。ワイルドカード証明書を使わず、Web サーバーで認証する HTTP-01 で足りるなら、この差は問題になりません。
Terraform などの IaC
DNSimple には Terraform のプロバイダーがあり、レコードをコードで管理できます。複数ドメインを同じ設定にそろえたい、変更履歴をレビューしたい、という運用に向いています。お名前.com DNS は公式のプロバイダーがないため、コードで管理したい場合は DNS を別サービスへ移す選択肢を検討することになります。
機能面の違い
- ゾーン頂点の CNAME 相当: DNSimple には ALIAS レコードがあり、example.com そのものを CDN やホスティングサービスのホスト名へ向けられます。お名前.com DNS では頂点に CNAME を置けないため、A レコードで IP を指定することになります。接続先の IP が変わるサービスを頂点で使う場合、この差は大きくなります。
- DNSSEC: DNSimple は DNSSEC に対応しています。お名前.com 側の対応状況や設定方法は、対象の TLD や使っているネームサーバーによって異なるため、Navi のヘルプで確認してください。お名前.com で登録したドメインを DNSimple の DNS で使う場合は、DS レコードの登録先がお名前.com 側になる点に注意してください。
- TTL の設定範囲・対応するレコード種別: CAA や SRV などを使う予定がある場合は、契約前に両方の画面やドキュメントで、入力できる種類と値の範囲を確かめておきます。
アカウントの安全性で比べる
DNS の管理アカウントが乗っ取られると、サイトやメールの行き先を書き換えられます。サービスの違いよりも、次の設定をしているかどうかのほうが影響は大きいので、どちらを選ぶ場合も確認してください。
- 二段階認証を有効にする: どちらのサービスも、パスワードに加えた追加の認証を設定できます(方式は各社の案内で確認してください)。パスワードだけの状態で使い続けないでください。
- 作業者ごとにアカウントや権限を分ける: DNSimple は複数のメンバーでアカウントを共有する機能があります(使える範囲は契約内容によります)。お名前.com で複数人が作業する場合、ログイン情報を共有する運用になりがちなので、作業者と作業内容を記録しておきます。
- API トークンの管理: DNSimple の API トークンは、レコードを変更できる強い権限を持ちます。サーバーの環境変数や権限を絞った設定ファイルに置き、Git やログに残さないようにします。
- ドメインの更新切れを防ぐ: お名前.com でドメインと DNS をまとめている場合、更新の失効がそのまま DNS の停止につながります。自動更新と、登録メールアドレスの受信確認をしておきます。
どちらを選ぶかの条件
次のような条件なら、お名前.com DNS のままで困ることは少ないはずです。
- ドメインをお名前.com で登録していて、DNS の変更は年に数回、画面から行えば足りる。
- 日本語のサポートや、日本語の解説記事を頼りに作業したい。
- 証明書は HTTP-01 認証で取得しており、ワイルドカード証明書は使っていない。
一方、次のような条件なら DNSimple を検討する価値があります。
- 証明書の自動更新、サーバー構築の自動化、CI からのレコード変更など、DNS をプログラムから操作したい。
- 管理するドメインが多く、設定をコードや API でそろえたい。
- ゾーン頂点を CDN やホスティングサービスのホスト名へ向けたい。
英語の画面やサポートに抵抗がある場合は、自動化の必要があっても、国内で API を提供している DNS サービスや、Cloudflare・Route 53 など日本語の情報が多いサービスと比べてから決めるのが現実的です。
乗り換えるときの注意点
どちらからどちらへ移る場合も、手順は同じです。
- 移行元のレコードをすべて書き出し、一覧にします(画面に表示されないものがないかも確認します)。
- 移行先に同じレコードを登録し、移行先のネームサーバーへ直接問い合わせて値を確認します。
- DNSSEC を使っている場合は、切り替え前に無効化するか、移行先の鍵の手順に従います。
- 移行元の TTL を短くしてから、レジストラでネームサーバーを切り替えます。
- 切り替え後もしばらくは、移行元のゾーンを削除せずに残しておきます。
# 移行先のネームサーバーに直接問い合わせて、主要なレコードを確認する
NS="ns1.example-dns.net" # 移行先のネームサーバー名に置き換え
for t in A MX TXT; do
echo "== $t"
dig +short "@$NS" example.com "$t"
done
dig +short "@$NS" www.example.com A
お名前.com で登録したドメインのネームサーバーを DNSimple に向けると、お名前.com DNS に登録していたレコードは使われなくなります。メールの MX や DKIM を忘れずに移してから切り替えてください。
まとめ
- どちらも権威 DNS で、違いは主に「操作の手段」と周辺機能です。画面で手入力する運用ならお名前.com DNS、API で自動化する運用なら DNSimple が向いています。
- DNSimple は API・サンドボックス・Certbot プラグイン・Terraform プロバイダーがあり、DNS-01 認証や IaC と組み合わせやすい構成です。
- お名前.com DNS は日本語の画面とサポート、ドメイン契約との一元管理が強みです。ワイルドカード証明書の自動更新が必要なら工夫が要ります。
- どちらを選んでも、二段階認証・権限の分離・トークンの管理・ドメインの更新管理が安全性を左右します。
- 乗り換えはレコードの書き出し、移行先での確認、TTL の短縮、ネームサーバーの切り替えの順に進め、移行元はしばらく残します。