2026年6月1日

2026年6月1日

DR(災害復旧)計画の立て方とRTO/RPO:目標値の決め方から復旧時間の見積もり、訓練まで

DR(災害復旧)計画は、「サーバーが使えなくなったとき、どれだけのデータを失ってよく、どれだけの時間で戻すか」を先に決め、それを実現するバックアップと手順を用意しておくものです。その2つの目標値が RPO(目標復旧時点)と RTO(目標復旧時間)です。この記事では、RTO と RPO の意味を時間軸で整理したうえで、業務への影響から目標値を決める方法、目標値に合う復旧方式の選び方、実際の復旧時間の見積もり方、計画書に書く項目、訓練の進め方までを順に説明します。小規模な Web サービスや WordPress サイトを VPS やクラウドで運用している方を想定しています。

RTOとRPOを時間軸で理解する

障害が起きた時刻を基準に、前と後ろを見ると整理しやすくなります。

  • RPO(Recovery Point Objective):障害の時点から「過去に」どこまで戻ってよいか。言い換えると、失ってもよいデータの量を時間で表したもの。RPO が24時間なら、最大で1日分のデータを失う前提になる
  • RTO(Recovery Time Objective):障害の時点から「未来に」どれだけの時間でサービスを再開するか。RTO が4時間なら、4時間以内に利用者が使える状態に戻す

RPO はバックアップの頻度と保管方法で決まり、RTO は復旧の手順と準備の度合いで決まります。性質の違う2つの値なので、別々に考えるのが基本です。

もう1つ、事業継続の分野では「最大許容停止時間」という考え方があります。これを超えて止まると、取引先を失う、法的な義務を果たせないなど、取り返しのつかない影響が出る時間です。RTO は、この許容停止時間より短く設定します。

手順1:守る対象と依存関係を洗い出す

最初に、サービスを動かすのに必要なものをすべて書き出します。サーバーとデータベースだけを考えがちですが、実際の障害では周辺の要素で復旧が止まることがよくあります。

  • Web サーバー、データベース、アップロードされたファイル
  • DNS とドメインの登録事業者(更新切れや、管理画面にログインできない事態も含む)
  • TLS 証明書、メール送信(SMTP や送信サービス)
  • 決済、外部 API、CDN などの外部サービス
  • サーバーやクラウドの管理画面に入るためのアカウント、二要素認証の端末
  • 設定ファイル、デプロイの手順、復旧に使うスクリプト

この一覧に「それが失われたら何が止まるか」「代わりの手段はあるか」を書き添えておくと、後の工程で優先順位を付けやすくなります。

手順2:業務への影響から目標値を決める

目標値は技術の都合ではなく、止まったときの影響から決めます。これを業務影響分析(BIA)と呼びます。たとえば次のような問いを、時間の経過ごとに考えます。

  • 1時間止まったら何が起きるか。半日なら、3日ならどうか
  • 失ったデータは、別の手段で取り戻せるか(注文メールの控えや、書き手の手元の原稿など)
  • 利用者や取引先との約束(利用規約、SLA)で決まっている条件はあるか

結果として、システムやデータの種類ごとに異なる目標値になるのが普通です。

対象 RPO の例 RTO の例 考え方
ECサイトの注文データ 15分 4時間 注文の消失は返金や信用に直結する
企業サイト・ブログ 24時間 1営業日 記事は書き手の手元にも残っていることが多い
アクセスログ 1週間 復旧を急がない 分析用で、止まっても業務は回る

すべてを短くすると費用と手間が大きく増えます。「本当に短くする必要があるのはどれか」を決めることが、計画の中心になります。

手順3:目標値に合う方式を選ぶ

RPOを満たすバックアップ

RPO は「最後に、別の場所へ保管し終えたデータ」の時点で決まります。毎日3時にバックアップを取り、3時30分に別サーバーへの転送が終わる運用なら、3時20分の障害では前日の分までしか戻せません。転送が終わるまでの時間も含めて考えてください。

  • 1日1回のダンプとファイルのバックアップ:RPO はおおむね24時間
  • データベースのバイナリログや差分を数分おきに別の場所へ送る:RPO を分単位にできる
  • レプリケーション:RPO を秒単位にできるが、誤操作や改ざんもそのまま複製される。レプリケーションはバックアップの代わりにはならない

ランサムウェアや不正アクセスでは、攻撃者がバックアップまで削除しようとします。本番とは別の認証情報で管理する保管先や、一定期間削除できない設定(オブジェクトロックなど)にしたコピーを1つ持っておくと、この事態に備えられます。

RTOを満たす復旧方式

復旧方式は、待機させておく環境の度合いで段階的に分けられます。AWS の Well-Architected フレームワークでも、おおむね次の4段階で整理されています(2026年10月現在)。

  • バックアップと復元:障害が起きてから環境を作り、バックアップを戻す。費用は小さいが RTO は数時間〜1日程度になりやすい
  • パイロットライト:データの複製だけを常に動かし、サーバーは障害時に起動する
  • ウォームスタンバイ:縮小した構成の待機環境を常に動かしておき、障害時に拡張して切り替える
  • マルチサイト(アクティブ/アクティブ):複数の拠点で同時に稼働させる。RTO は最短だが、構成と費用が最も大きい

小規模なサイトの多くは「バックアップと復元」で十分ですが、その場合でも、環境を作り直す手順をスクリプトやドキュメントにしておくと RTO を大きく縮められます。

実際の復旧時間を見積もる

RTO を決めたら、それが本当に守れるかを積み上げで確かめます。復旧の時間は、データを戻す作業だけではありません。

  1. 検知:監視で障害に気づくまで
  2. 判断:担当者に連絡がつき、「DR を発動する」と決めるまで
  3. 環境の用意:サーバーの作成、ミドルウェアの設定
  4. データの復元:バックアップの転送と展開、データベースの読み込み
  5. 切り替え:DNS の変更と、その反映
  6. 確認:表示、ログイン、決済、メール送信などの動作確認

夜間に障害が起きて担当者が朝まで気づかなければ、それだけで数時間が過ぎます。データベースの読み込みに3時間かかるなら、RTO が2時間という目標はそもそも達成できません。DNS は、レコードの TTL が長いと切り替えの反映に時間がかかるため、切り替え予定のレコードは普段から短めの TTL にしておく方法があります。見積もりが目標を超える項目があれば、そこが改善の優先箇所です。

計画書に書くこと

計画書は、障害のときに読む人が迷わないことを目的に書きます。分厚い文書より、手順が具体的なほうが役に立ちます。

  • 目的と対象範囲、各システムの RTO と RPO
  • 連絡先と役割:誰が判断し、誰が作業し、誰が利用者へ知らせるか。担当者が不在のときの代わり
  • DR を発動する条件:どのような状態が何分続いたら発動するか
  • 障害の種類ごとの手順書:サーバー故障、データの誤削除、不正アクセス、クラウドの障害、ドメインの失効など
  • 復旧に必要な情報の保管場所:管理画面の認証情報、暗号化の鍵、手順書そのもの。本番の環境が失われても参照できる場所に置く
  • 利用者への告知の文面の例と、告知の手段
  • 復旧後に元の環境へ戻す手順(フェイルバック)

認証情報や鍵の保管場所は、権限のある人だけが参照できるように管理してください。計画書そのものに平文で書くのは避けます。

訓練と見直し

一度も試していない計画は、ほとんどの場合そのままでは動きません。段階を分けて訓練します。

  • 机上訓練:シナリオを読み上げ、手順書どおりに進められるかを話し合いながら確かめる
  • 復元訓練:別の環境にバックアップを戻し、サイトが動くことと、かかった時間を記録する
  • 切り替え訓練:可能であれば、実際に待機環境へ切り替えてみる

訓練で計った時間を RTO と比べ、超えていれば手順や構成を見直します。また、サーバーの移転、構成の変更、担当者の交代があったときと、少なくとも年に1回は計画書を更新してください。

まとめ

  • RPO は失ってよいデータの量、RTO は再開までの時間。別々に決める
  • 守る対象には、DNS、ドメイン、証明書、管理画面のアカウントなど周辺の要素も含める
  • 目標値は業務への影響から決め、システムやデータごとに差を付ける
  • RPO は「別の場所に保管し終えた時点」で決まる。レプリケーションはバックアップの代わりにならない
  • 実際の復旧時間は検知から動作確認までの積み上げで見積もり、訓練で計って計画を更新する

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