2026年6月6日
2026年6月6日
DNSimple と Google Cloud DNS を比較する|証明書の自動更新・CDN 接続・メール認証など WordPress 運用の作業で見る違い
DNSimple と Google Cloud DNS のどちらが向いているかは、WordPress を運用していて実際に DNS を触る場面、つまり「SSL 証明書の自動更新」「CDN やホスティングへの接続」「メール認証レコードの追加」でどちらが手間なく安全に回せるかで判断すると決めやすくなります。ドメインの登録から証明書まで一つの窓口で済ませたいなら DNSimple、WordPress を Google Cloud 上で動かし権限や証明書の発行も Google Cloud にそろえたいなら Cloud DNS が合いやすい、というのがこの記事の結論です。
この記事では、二つのサービスの機能一覧を並べるのではなく、WordPress サイトの運用でよく発生する作業ごとに、それぞれのサービスでどう進めることになるかを比べます。Terraform で管理する前提の比較や、権限・DNSSEC・障害時の切り替えといった観点は別の記事で扱っているため、ここでは日常の作業に絞ります。各サービスの機能や提供条件は変わることがあるため、ここでは公開情報をもとに整理した内容(2026年10月現在)として読み、契約前に公式ドキュメントで確かめてください。料金の比較はしません。
前提:どちらも「権威 DNS」だが守備範囲が違う
DNSimple は、ドメインの登録・更新、DNS ホスティング、証明書の取得をひとつのアカウントで扱うことを目指したサービスです。他社で登録したドメインの DNS だけを置くこともできます。
Google Cloud DNS は、Google Cloud のプロジェクトに属する DNS サービスです。インターネット向けのパブリックゾーンに加えて、VPC の中だけで引けるプライベートゾーンを作れます。ドメインの登録は Cloud DNS の機能ではないため、レジストラは別に考えます。
この違いが、以下の作業ごとの差になって表れます。
作業1:Let’s Encrypt 証明書の自動更新(DNS-01)
WordPress の証明書は、多くの場合 HTTP-01 チャレンジ(Web サーバーに確認用ファイルを置く方式)で取得できるため、DNS の種類は関係しません。DNS が関係してくるのは、ワイルドカード証明書(*.example.com)が必要なときや、Web サーバーを外部に公開する前に証明書を用意したいときです。この場合は DNS-01 チャレンジを使い、_acme-challenge という TXT レコードを自動で作って消す必要があります。
certbot には、どちらのサービスにも対応した公式の DNS プラグインがあります。
# DNSimple の場合(certbot-dns-dnsimple プラグイン)
# 認証情報ファイルの中身: dns_dnsimple_token = your-api-token
sudo chmod 600 /etc/letsencrypt/dnsimple.ini
sudo certbot certonly --dns-dnsimple \
--dns-dnsimple-credentials /etc/letsencrypt/dnsimple.ini \
-d example.com -d '*.example.com'
# Google Cloud DNS の場合(certbot-dns-google プラグイン)
sudo certbot certonly --dns-google \
--dns-google-credentials /etc/letsencrypt/gcp-dns-sa.json \
-d example.com -d '*.example.com'
違いが出るのは、認証情報の扱いです。DNSimple では API トークンを1つ発行してファイルに置く形になり、手順は単純です。ただし、トークンの操作範囲をどこまで絞れるかはトークンの種類やプランによるため、公式ドキュメントで確かめたうえで、漏れたときの影響範囲は広めに見積もっておきます。
Cloud DNS では、DNS の変更だけを許可したサービスアカウントを用意して使います。Compute Engine 上で certbot を動かすなら、鍵ファイルを置かずに VM に割り当てたサービスアカウントの権限で動かせる場合があり(プラグインのバージョンによります)、鍵の漏えいリスクを下げられます。権限設計の手間はかかりますが、「DNS 以外は何もできない認証情報」を作りやすいのは Cloud DNS です。
なお、Google Cloud のロードバランサーで証明書を使う場合は、Certificate Manager の DNS 認可という仕組みがあり、指定された CNAME を DNS に1件追加しておけば Google 側で証明書の発行と更新が進みます。この CNAME は Cloud DNS 以外の DNS に置いても機能します。
作業2:CDN やホスティングサービスへの接続
WordPress の前に CDN を置いたり、ホスティングサービスに載せ替えたりするとき、案内されるのは「www を指定のホスト名に CNAME で向けてください」という形が多いです。www だけならどちらのサービスでも同じ作業です。
差が出るのは、example.com のような頂点(ゾーンの最上位)を CDN に向けたい場合です。頂点には DNS の仕様上 CNAME を置けません。
- DNSimple には ALIAS レコードがあり、頂点でもホスト名を指定できます。DNSimple 側が向け先を解決し、A / AAAA として応答します。
- Cloud DNS には任意のホスト名を指定できる ALIAS 相当の仕組みがないため、CDN 側が案内する固定 IP アドレスを A / AAAA で登録するか、頂点から
wwwへ Web サーバー側でリダイレクトする構成にします。
CDN 側が「頂点は固定 IP で」と案内している場合はどちらでも困りませんが、IP アドレスが変わる可能性のあるサービスへ頂点を向けたいなら DNSimple のほうが扱いやすくなります。頂点を www へ転送するだけなら、DNSimple には URL レコードという簡易転送の仕組みもあります。ただし、HTTPS での転送の挙動や証明書の扱いは事前に確認してください。
作業3:メール認証レコード(SPF・DKIM・DMARC)の追加
WordPress からのメール送信を外部のメール配信サービスに任せると、SPF、DKIM、DMARC の TXT や CNAME を追加することになります。ここはどちらも作業量は大きく変わりませんが、つまずきやすい点が違います。
Cloud DNS では、255 文字を超える TXT レコード(長い DKIM 公開鍵など)を登録するとき、値を "前半" "後半" のように複数の文字列に分けて書く必要があります。分けずに入れるとエラーになるか、意図しない値になります。gcloud コマンドで登録する場合も同様です。
DNSimple の管理画面では値を貼り付けて保存する形で、長い TXT の分割をどう扱うかは画面や API の仕様に従います。いずれの場合も、登録後に dig で実際の応答を確かめるのがいちばん確かな確認方法です。
dig +short selector1._domainkey.example.com TXT
dig +short _dmarc.example.com TXT
作業4:トラブル時に「誰が何を変えたか」を追う
証明書の更新が止まった、メールが届かなくなった、といったトラブルでは、直前に誰がどのレコードを変えたかを知りたくなります。
Cloud DNS では、レコードの変更は Google Cloud の監査ログに記録され、どのアカウント(人かサービスアカウントか)が変更したかを追えます。certbot や CI からの自動変更が多い環境では、この記録が役に立ちます。
DNSimple にも変更履歴を確認する機能がありますが、提供範囲や保存期間はプランによって異なることがあります。チームで運用する場合は、その点を契約前に確認しておきます。
どちらを選ぶかの目安
DNSimple が合いやすいのは次のような場合です。
- ドメインの登録・更新と DNS、証明書を一つの画面でまとめて管理したい
- 頂点ドメインを CDN やホスティングのホスト名へ向けたい
- Google Cloud を使っておらず、クラウドの権限設計に時間をかけたくない
Google Cloud DNS が合いやすいのは次のような場合です。
- WordPress を Compute Engine や Cloud Run など Google Cloud 上で動かしている
- certbot や CI に渡す認証情報を、DNS の変更だけに絞りたい
- ロードバランサーの証明書を Certificate Manager で自動管理したい
- 変更の記録を監査ログとして残したい
どちらに決めても、移行時はレコードの棚卸し、TTL の短縮、切り替え前の直接問い合わせ、DNSSEC の扱いの確認という基本の手順は共通です。
まとめ
- 比較は機能一覧より、証明書の自動更新・CDN 接続・メール認証・変更の追跡といった実際の作業で考えると判断しやすくなります。
- DNS-01 で証明書を取るなら、どちらも certbot の公式プラグインがあります。認証情報を細かく絞りやすいのは Cloud DNS、手順が単純なのは DNSimple です。
- 頂点ドメインをホスト名で CDN に向けたい場合は、ALIAS レコードのある DNSimple が扱いやすくなります。
- Cloud DNS で長い TXT を登録するときは文字列の分割に注意し、どちらでも登録後は dig で応答を確かめます。
- 機能の提供範囲は変わるため、契約前に公式ドキュメントで最新の情報を確認してください。