2026年6月11日
2026年6月11日
NS1 と AWS Route 53 Resolver を比較する|権威DNSとVPC用リゾルバーの役割の違いと、併用するときの分担
NS1 と AWS Route 53 Resolver は、同じ「DNS サービス」でも担当する層が異なり、どちらか一方を選ぶ関係にはなりません。NS1 はドメインの答えを世界に向けて返す「権威 DNS」で、Route 53 Resolver は AWS の VPC 内のサーバーが名前を引くときに使う「リゾルバー(キャッシュ DNS)」です。この記事では、両者の役割の違いを整理したうえで、比較が意味を持つ場面と、両方を組み合わせて使うときの分担を説明します。
なお、NS1 は IBM に買収され、製品名や提供形態が変わってきています(2026年10月現在)。機能の名称や契約の単位は変わる可能性があるため、検討の際は各社の公式ドキュメントで最新の内容を確認してください。料金も構成によって大きく変わるため、この記事では扱いません。
権威DNSとリゾルバーの違い
DNS の名前解決には、2種類のサーバーが関わります。
- 権威 DNS: 「example.com の A レコードは何か」に対して、ゾーンの持ち主として正式な答えを返すサーバーです。ドメインのネームサーバーとしてレジストラに登録します。
- リゾルバー(フルサービスリゾルバー): 利用者の端末やサーバーから問い合わせを受け、ルートから順に権威 DNS へ問い合わせて答えを集め、キャッシュするサーバーです。
NS1 は前者、Route 53 Resolver は後者です。Web サイトを公開するときにネームサーバーとして登録するのは NS1 のような権威 DNS で、Route 53 Resolver をネームサーバーとして登録することはできません。
「NS1 と AWS を比べたい」という目的であれば、比較の相手は Route 53 Resolver ではなく、Route 53 のパブリックホストゾーン(Route 53 の権威 DNS 機能)です。この記事の後半で、その観点にも触れます。
Route 53 Resolver が担当すること
Route 53 Resolver は、VPC を作ると自動で使えるようになる DNS です。VPC 内の EC2 などは、特に設定しなければこの Resolver に問い合わせます。主な機能は次のとおりです。
- VPC 内の名前解決: インターネット上の名前、VPC に関連付けたプライベートホストゾーンの名前、EC2 の内部ホスト名を解決します。
- 転送ルール: 特定のドメイン(例: 社内の corp.example.com)の問い合わせを、アウトバウンドエンドポイント経由でオンプレミスなどの DNS へ転送します。
- インバウンドエンドポイント: オンプレミスなど VPC の外から、VPN や専用線を通じて VPC 内の名前を引けるようにする受け口です。
- DNS Firewall: VPC からの問い合わせのうち、指定したドメインへのものを遮断・警告します。
- クエリログ: VPC 内からどんな名前が問い合わされたかを記録します。
いずれも「VPC の中から外を引く」「外から VPC の中を引く」ための機能で、インターネットの利用者に答えを返す機能ではありません。
NS1 が担当すること
NS1 は、マネージド型の権威 DNS サービスで、API を中心に設計されている点が特徴です。代表的な機能は次のとおりです(名称や提供範囲は契約形態によって異なります)。
- 権威 DNS のホスティング: 世界中に分散したネームサーバーでゾーンを公開します。
- トラフィック制御: 問い合わせ元の地域、接続先の死活監視の結果、重み付けなどに応じて、返すレコードを動的に選ぶ仕組みがあります。NS1 ではこれをフィルターを順に並べる方式で設定します。
- 監視との連動: 接続先を監視し、異常があれば回答から外す設定ができます。
- API と IaC: REST API が用意されており、公式の Terraform プロバイダーもあります。
つまり NS1 は「インターネットの利用者に、どのサーバーの IP を返すか」を細かく制御するための製品です。
比較表: 役割の違い
両者は役割が違うため、優劣ではなく「何を担当するか」で並べます。
| 観点 | NS1 | Route 53 Resolver |
|---|---|---|
| DNS の種類 | 権威 DNS | リゾルバー(VPC 用) |
| 答える相手 | インターネット上のリゾルバー | VPC 内のリソース、エンドポイント経由のオンプレミス |
| レジストラへの登録 | ネームサーバーとして登録する | 登録しない |
| 主な用途 | 公開ゾーンの運用、地域・死活に応じた振り分け | ハイブリッド環境の名前解決、DNS の遮断・記録 |
| 設定の単位 | ゾーン・レコード | VPC・エンドポイント・ルール |
比較が意味を持つ3つの場面
役割が違うとはいえ、検討の場面によっては両方の名前が同時に出てきます。
1. 公開 DNS を NS1 と Route 53 のどちらにするか
この場合に比べるべきは NS1 と Route 53 のパブリックホストゾーンです。判断の材料になるのは次の点です。
- AWS との結びつき: Route 53 には CloudFront や ALB を指すエイリアスレコードがあり、AWS 中心の構成では設定が簡単になります。
- 振り分けの細かさ: 複数のクラウドや CDN をまたいで、地域や監視結果に応じて細かく振り分けたい場合は、NS1 のトラフィック制御が選択肢になります。Route 53 にも地理的近接性・レイテンシー・フェイルオーバーなどのルーティングポリシーがあるため、必要な振り分けがどちらで表現できるかを具体的に書き出して比べます。
- 契約と運用体制: NS1 は企業向けの契約が中心です。AWS の請求にまとめたいか、DNS を AWS から独立させたいか、という観点もあります。
2. AWS の VPC から社内 DNS の名前を引きたい
社内 DNS(オンプレミスの DNS や、社内向けに運用している DNS 製品)にある名前を VPC から引くには、Route 53 Resolver のアウトバウンドエンドポイントと転送ルールを使います。この役割は NS1 の公開 DNS では代わりになりません。
3. 公開と社内で同じドメイン名を使っている
公開用の example.com を NS1 で運用し、VPC 内では同じ名前の一部を別の IP(内部アドレス)で引かせたい、というケースです。VPC にプライベートホストゾーンを関連付けると、その VPC 内からはプライベートホストゾーンの内容が優先されます。ここで注意が要るのは、プライベートホストゾーンに存在しない名前は、公開側にあっても VPC 内からは解決できなくなることがある点です。プライベートホストゾーンのドメインは、公開ゾーンと重ならないサブドメイン(例: internal.example.com)に分けると、この種のトラブルを避けやすくなります。
併用するときの分担例
AWS 上で Web サービスを動かし、公開 DNS を NS1 で運用する場合の典型的な分担は次のようになります。
- NS1: example.com の公開ゾーン。CDN やロードバランサーのホスト名へ CNAME で向ける、複数リージョンへの振り分けを行う。
- Route 53 Resolver: VPC 内の名前解決。社内ドメインの転送ルール、DNS Firewall、クエリログ。
- Route 53 プライベートホストゾーン: VPC 内だけで使う名前(データベースや内部 API)。
この分担で注意したいのは、NS1 側で ALB などを指すときに Route 53 のエイリアスレコードは使えないことです。サブドメインであれば CNAME で ALB や CloudFront のホスト名を指せますが、ゾーン頂点(example.com そのもの)は CNAME を置けないため、NS1 側の頂点向けの機能(ALIAS 相当)を使うか、構成を工夫する必要があります。NS1 側の対応状況はドキュメントで確認してください。
VPC 内のサーバーから公開ドメインを引く場合、Route 53 Resolver はインターネット経由で NS1 の権威 DNS に問い合わせるので、特別な設定は要りません。NS1 側でレコードを変更した後、VPC 内で古い答えが返る場合は、Resolver のキャッシュ(レコードの TTL)が残っているのが通常の原因です。
動作の確かめ方
役割の違いは、問い合わせ先を変えて確かめると理解しやすくなります。
# 公開側: NS1 の権威DNSに直接問い合わせる
dig +short example.com NS
NS=$(dig +short example.com NS | head -n 1)
dig +short "@$NS" www.example.com A
# VPC 内の EC2 から: Resolver(VPC の DNS)経由で問い合わせる
# VPC の Resolver は 169.254.169.253 でも参照できる
dig +short @169.254.169.253 www.example.com A
dig +short @169.254.169.253 db.internal.example.com A
1つ目は世界に公開されている答え、2つ目は VPC 内のサーバーが実際に受け取る答えです。両者が食い違う場合は、プライベートホストゾーンや転送ルールが意図どおりに効いているか、TTL によるキャッシュが残っていないかを順に確認します。
まとめ
- NS1 は権威 DNS、Route 53 Resolver は VPC 用のリゾルバーで、担当する層が異なります。どちらか一方を選ぶ比較にはなりません。
- 公開 DNS の比較をしたい場合、NS1 の比較相手は Route 53 のパブリックホストゾーンです。振り分けの細かさ、AWS との結びつき、契約形態で判断します。
- 社内 DNS と VPC をつなぐ、VPC 内の問い合わせを遮断・記録する、といった用途は Route 53 Resolver の役割です。
- 併用する場合は、公開ゾーンを NS1、VPC 内の名前解決を Resolver とプライベートホストゾーンに分け、名前空間が重ならないように設計します。
- 製品名や機能は変わることがあるため、採用前に公式ドキュメントで最新の仕様を確認してください。