2026年6月6日

2026年6月6日

Segment Routing 設計のベストプラクティス|SR-MPLS と SRv6 の選び方、SID 計画、移行と運用

Segment Routing(SR)の設計で後から直しにくいのは、「SR-MPLS と SRv6 のどちらにするか」「SID(セグメント識別子)をどう割り当てるか」「既存の LDP や RSVP-TE からどう移るか」の3点です。この記事では、これらを決める順番と判断の基準、設計段階で見落としやすい MTU・ハードウェア制約・セキュリティ、導入後の運用までを整理します。特定ベンダーの設定手順ではなく、どの実装でも共通する設計の考え方を中心にまとめます。

Segment Routing の要点をおさらい

Segment Routing は、パケットの送信元が「通ってほしい経路」をセグメントの並び(SID リスト)としてパケットに付け、途中のルーターはその指示に従って転送する方式です。経路情報の配布には既存の IGP(IS-IS や OSPF)の拡張を使うため、LDP や RSVP-TE のような追加のシグナリングプロトコルを動かす必要がありません。

SID には主に次の種類があります。

  • Prefix-SID(Node-SID):特定のルーター(多くはループバックアドレス)を指す SID。ドメイン全体で一意にします。
  • Adjacency-SID:特定のリンク(隣接関係)を指す SID。そのルーターでのみ意味を持ちます。
  • Anycast-SID:複数のルーターで同じ Prefix-SID を共有し、最寄りの1台へ届ける用途に使います。
  • BGP の SID や Binding-SID:ドメイン間の出口や、SR ポリシー全体を1つの SID で表すときに使います。

決めること1:SR-MPLS か SRv6 か

SR-MPLS は MPLS ラベルを SID として使う方式で、既存の MPLS 網と機器資産をそのまま活かせます。SRv6 は IPv6 アドレスを SID として使う方式で、IPv6 網の上で MPLS を使わずに動かせ、サービス(VPN など)の表現力が高いのが特徴です。

判断の目安は次のとおりです。

  • 既存が MPLS 網で、L3VPN などのサービスが動いている → まず SR-MPLS で LDP を置き換えるのが無理の少ない道です。
  • データセンターや新規構築で、IPv6 前提の網を作る → SRv6 を検討する価値があります。
  • 機器ベンダーが混在する → 両方式とも、相互接続できる機能の範囲を実機で確認します。特に SRv6 の圧縮 SID(uSID / NEXT-CSID)は標準化と実装の対応状況が機器ごとに異なります(2026年10月現在)。

どちらを選ぶ場合も、採用する機能が導入予定の全機種・全バージョンでサポートされているかを、設計の最初に表にしておくと後戻りを防げます。

決めること2:SID の割り当て計画

SR-MPLS:SRGB と SRLB をそろえる

SR-MPLS では、Prefix-SID を「SRGB(Segment Routing Global Block)の先頭ラベル+インデックス」で表します。SRGB の範囲がルーターごとに違うと、同じインデックスでも実際のラベル値が機器ごとに変わり、トラブルシューティングが難しくなります。設計の原則は、ドメイン内の全ルーターで SRGB を同じ範囲にそろえることです。多くの実装で 16000 から始まる範囲が既定値として使われていますが、既定値は実装ごとに異なるため、明示的に設定して統一します。

Adjacency-SID などローカルに割り当てる SID の範囲(SRLB)も、他の用途のラベル範囲と重ならないように決めておきます。

インデックスの付け方に規則を持たせる

Prefix-SID のインデックスは、ルーターの役割や拠点と対応づけると運用が楽になります。

# インデックス割り当ての例(SRGB 先頭 16000 の場合)
  1 - 99    : コアルーター(P)
100 - 499   : 拠点のエッジルーター(PE)。拠点ごとに 100 単位で区切る
500 - 599   : Anycast-SID(冗長ペアで共有)
900 - 999   : 予備・検証用

ループバックアドレスの割り当て表と SID の表を1つの台帳で管理し、片方だけを更新することがないようにします。

SRv6:ロケーターの設計

SRv6 では、各ルーターに「ロケーター」と呼ぶ IPv6 プレフィックスを割り当て、その中から SID を払い出します。ドメイン全体用に1つのプレフィックスを確保し、そこからルーターごとのロケーターを切り出すと、集約やフィルタが書きやすくなります。インターネットに公開している IPv6 アドレス帯とは分けて計画するのが一般的です。

決めること3:IGP とトポロジー

SR の SID は IGP で配布されるため、IGP の設計がそのまま SR の品質に影響します。

  • IS-IS か OSPF か:どちらにも SR 拡張があります。既存網で使っている IGP をそのまま使うのが基本です。
  • エリア/レベルの分割:大規模網では分割が必要ですが、分割境界をまたぐ経路制御(SR ポリシー)の要件を先に確認します。
  • TI-LFA の活用:TI-LFA(Topology Independent Loop-Free Alternate)は SR を使った高速迂回の仕組みで、トポロジーに依存せず迂回路を事前計算できます。導入する場合は、迂回時に積まれる SID の数が機器の上限内に収まるかを確認します。

見落としやすい3つの制約

MTU

SR-MPLS ではラベル1つにつき4バイト、SRv6 では外側の IPv6 ヘッダー(40バイト)に加えてセグメントルーティングヘッダー(SRH)の分が増えます。TE や TI-LFA で SID を多く積む場面を想定し、コアのリンク MTU に余裕を持たせます。MTU 不足は「小さいパケットは通るが大きいパケットだけ落ちる」という分かりにくい症状になります。

MSD(積める SID の最大数)

機器ごとに、1つのパケットに積める SID の最大数(MSD)が決まっています。SR ポリシーの経路を細かく指定しすぎると、この上限を超えて設定が使えないことがあります。経路の指定は必要最小限の中継点にとどめ、残りは IGP の最短経路に任せるのが基本です。

セキュリティ境界

SR の情報はドメインの内側でだけ意味を持つべきものです。外部から SID 付きのパケットが入ってくると、内部の経路を勝手に指定される恐れがあります。SR-MPLS ではドメイン外からのラベル付きパケットを受け付けない、SRv6 では境界でロケーター宛てや SRH 付きのパケットをフィルタする、といった境界の防御を設計に含めます。SRv6 については RFC 8754 などでも、ドメイン境界でのフィルタの必要性が述べられています。

LDP からの移行の進め方

既存の LDP 網からの移行は、一度に切り替えず、共存させながら段階的に進めます。

  1. 全ルーターで SR を有効にし、Prefix-SID を割り当てる(この時点では LDP を優先)
  2. SR に対応していない機器がある区間は、マッピングサーバーの機能で LDP と SR をつなぐ
  3. 区間ごとに SR を優先するよう設定を切り替え、転送経路とサービスの疎通を確認する
  4. 全区間で問題が無いことを確認してから LDP を停止する

各段階で、切り戻しの手順と判断基準(どの監視項目が悪化したら戻すか)を決めておきます。設定はバックアップを取ってから変更し、本番前に検証環境で同じ手順を通しておきます。

運用で押さえておくこと

  • 可視化:SID の割り当て状況、SR ポリシーの状態、TI-LFA の保護状況を定期的に取得します。BGP-LS でトポロジーをコントローラーに集める構成も選択肢です。
  • 疎通確認の手段:MPLS の ping / traceroute や、SRv6 対応の traceroute など、SID 単位で経路を確かめる手段を運用手順に入れておきます。
  • 台帳と実機の差分チェック:SID の重複は障害の原因になるため、設定から SID を抽出して台帳と突き合わせる仕組みを用意します。

まとめ

  • 既存が MPLS 網なら SR-MPLS、新規の IPv6 網なら SRv6 も候補。対応機能は全機種で事前に確認する。
  • SRGB はドメイン内で統一し、SID のインデックスは役割と拠点に対応づけて台帳で管理する。
  • IGP 設計と TI-LFA は SR の品質に直結する。迂回時の SID 数にも注意する。
  • MTU、MSD、ドメイン境界のフィルタは設計段階で決めておく。
  • LDP からの移行は共存させながら段階的に、切り戻し基準を決めてから進める。

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