2026年6月4日
2026年6月4日
商標ドメインの申立手順|手続きの選び方から申立書の準備、裁定後の移管まで
自社の商標と同じか紛らわしいドメインを第三者に使われているとき、申立てで取り戻すまでの流れは「証拠の保全」「手続きの選択」「申立書の作成と提出」「裁定後の移管」の4段階に分けて考えると整理しやすくなります。この記事では、商標権者の立場から、TLD ごとにどの手続きを使うか、申立書に何を書くか、裁定が出た後にドメインを自社の管理下へ移すまでを、実務の順番で説明します。申立てを受けた登録者側の対応は別の記事で扱います。
段階1: 見つけた時点で証拠を保全する
紛らわしいドメインを見つけたら、相手に連絡する前に記録を残します。相手がサイトの内容を変えたり、ドメインを別の人に移したりすると、後から状況を示しにくくなるためです。
- 登録情報: 登録日、レジストラ、ステータス、ネームサーバー。gTLD は RDAP や WHOIS、.jp は JPRS の WHOIS で確認し、取得日時とともに保存します。
- サイトの表示: 画面全体のスクリーンショットを、URL と日時が分かる形で保存します。Web アーカイブに残る過去の表示も参考になります。
- 相手とのやり取り: 売却の持ち掛けなどがあれば、メールをそのまま保存します。
- 自社の権利: 商標の登録番号、権利者、指定商品・役務。J-PlatPat などで登録内容を確認し、登録日も控えます。
# gTLD の登録情報(RDAP に対応したクライアントや Web の検索窓口も使える)
whois example.com
# .jp の登録情報
whois -h whois.jprs.jp "example.jp"
gTLD の多くでは、登録者の氏名や連絡先が公開されていません。申立てをすると、紛争処理機関がレジストラに登録者の情報を確認するため、手続きの中で相手が特定されます。
段階2: 目的に合った手続きを選ぶ
申立ての前に、何を実現したいかを決めます。目的によって適した手段が異なります。
被害をすぐに止めたい場合
自社を装ったフィッシングや偽の通販サイトの場合、紛争処理の結論を待つ間にも被害が広がります。まず、レジストラやホスティング事業者の不正利用の窓口に通報し、利用者への注意喚起を出します。フィッシングは JPCERT/CC やフィッシング対策協議会などの報告窓口も利用できます。ドメインの取り戻しは、これと並行して進めます。
ドメインを取り戻したい場合
TLD によって使う手続きが決まっています。
- .jp(co.jp などを含む): JP-DRP。申立先は日本知的財産仲裁センターです。
- .com や新 gTLD などの gTLD: UDRP。申立先は WIPO 仲裁調停センターなど ICANN が認定した紛争処理機関から選びます。
- 新 gTLD など一部の gTLD で、早く使用を止めたい場合: URS。結果はドメインの停止にとどまり、移転は受けられません。
- その他の ccTLD: 国ごとの紛争処理方針があり、UDRP を採用している国もあれば独自の方式の国もあります。
いずれの手続きも、結果はドメインの移転、取消し、停止などに限られ、損害賠償は扱いません。金銭の請求や差止めを求めるなら、裁判所での手続きを検討します。
交渉で解決できそうな場合
相手に悪意が無さそうなら、連絡して譲渡を相談するほうが早く済むこともあります。ただし、連絡をきっかけに相手がドメインを別の人に移すと、相手方の特定からやり直しになります。連絡する前に段階1の記録を済ませておきます。
段階3: 申立書を作って提出する
3つの要件を証拠で示す
UDRP も JP-DRP も、申立人が次の3点を示す必要があります。
- ドメイン名が自社の商標などと同一、または混同を引き起こすほど類似していること
- 登録者に、そのドメイン名についての権利または正当な利益が無いこと
- ドメイン名が不正の目的で登録・使用されていること(UDRP は「登録かつ使用」、JP-DRP は「登録または使用」)
申立書では、要件ごとに主張と証拠を対応させて書きます。たとえば要件3なら、「登録日が自社の商標登録より後である」「サイトで自社の商品画像を使っている」「高額での買い取りを持ち掛けてきた」といった事実を、段階1の記録で裏付けます。パネル(裁定を行う専門家)は書面だけで判断するため、読み手が要件を一つずつ確認できる構成にします。
救済は移転を選ぶのが一般的
求める救済は、移転か取消しを選びます。取消しを選ぶと、ドメインが解放された後に別の第三者が登録できてしまいます。自社で管理し続けたいなら、移転を求めるのが一般的です。
提出時に決めること
- パネルの人数: 1名か3名かを選びます。3名にすると費用が増えます。
- 手続きの言語: UDRP では原則として登録契約の言語になります。JP-DRP は日本語で進みます。
- 管轄の同意: UDRP では、裁定後に訴訟が起きた場合の管轄について同意する項目があります。
書式や提出方法、費用は紛争処理機関ごとに決められています。最新の規則と書式は各機関の公式サイトで確認してください(2026年10月現在)。
段階4: 裁定が出た後の移管と管理
移転の裁定が出ても、登録者が所定の期間内に裁判所へ訴えを起こした場合は、裁定の実施が見合わされます。期間が過ぎて実施されると、ドメインは申立人の名義に移ります。
移転の方法は TLD やレジストラによって異なります。相手が使っていたレジストラで申立人のアカウントに移される場合もあれば、申立人が指定するレジストラへの移管を案内される場合もあります。案内に従って手続きを進め、受け取った後は次の設定を済ませます。
- 登録者情報を会社名義と正しい連絡先に更新する
- 自動更新、移管ロック、管理画面の二要素認証を設定する
- ネームサーバーを自社の DNS に向け、主要なサイトへ 301 リダイレクトする
- メールを使わないなら、Null MX や SPF、DMARC で送信しないことを宣言する
- ドメインの台帳に加え、有効期限と担当者を記録する
取り戻したドメインを更新し忘れて失効させると、また第三者に取られる可能性があります。防衛取得したドメインと同じ扱いで管理してください。
専門家に相談したほうがよい場面
相手が同じ名前で正当な事業をしている、商標の登録より前からドメインが使われている、海外の ccTLD で手続きの仕組みが分からない、といった場合は、申立てが認められる見込みの判断が難しくなります。根拠が弱いまま申し立てると、棄却されるだけでなく、手続きの濫用と判断されることもあります。ドメイン紛争に詳しい弁理士や弁護士に、見込みと他の手段との比較を相談してから進めてください。
まとめ
- 見つけたら、相手に連絡する前に登録情報、サイトの表示、やり取り、自社の権利を記録します。
- 被害を止めたいなら通報、取り戻したいなら TLD に応じて JP-DRP、UDRP、URS などを選び、金銭の請求は裁判で扱います。
- 申立書は3要件ごとに主張と証拠を対応させ、救済は移転を選ぶのが一般的です。
- 裁定後は案内に従って受け取り、名義、自動更新、ロック、DNS を整えて台帳で管理します。
- 判断に迷う事案は、申し立てる前に専門家に相談します。